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甲子園の新しい「リリーフカー」に乗ってみたら、リリーフ王国・阪神タイガースを支え続ける存在であることが分かった

甲子園の新しい「リリーフカー」に乗ってみたら、リリーフ王国・阪神タイガースを支え続ける存在であることが分かった

プロ野球の試合で、継投の際に投手をマウンドへ送る「リリーフカー」。現在では廃止する球場も多く世界的に見ればレアな存在だが、「阪神甲子園球場」「横浜スタジアム」「ZOZOマリンスタジアム」では今なお活躍中だ。特に阪神甲子園球場では2022年にリリーフカーをリニューアル。バッテリー電気自動車をベースにカスタマイズし、リリーフカーとしての機能性を突き詰めるなど、大きな進化を遂げている。

今回、そんな新型リリーフカーについて甲子園に取材を申し込むと、なんと「体験乗車」をさせてもらえるという。なお、筆者は30年来の阪神ファン。感激よりも(他のファンの皆さんへの)申し訳なさが先に立ってしまうが、せっかくの貴重すぎる機会なので、全力でレポートしたい。

(※取材は、新型コロナウイルス感染症の予防対策を講じた上で、2022年6月23日に実施しました)

リリーフカーが登場したのは約60年前

リリーフカーは単なる足ではなく、ピンチのマウンドへ向かう投手をより輝かせる、演出的な要素もあると思う。リリーフカーで颯爽とグラウンドに現れる救世主の頼もしい姿に、ファンは心躍らせるからだ。

特に、阪神タイガースは古来よりリリーフ投手のスターが多く、「遠山・葛西スペシャル」(詳しいことは調べてください)や「JFK」(調べてください)など、救援にまつわるさまざまな伝説がある。それらの思い出は全て、時代ごとのリリーフカーの映像とともに目に焼き付いている。

ライターの榎並紀行です。好きなリリーフは岩崎優投手。期待の若手野手は小野寺暖選手です。

自宅のタイガースコーナーで野球中継を見ている時が一番幸せです(撮影:榎並紀行)。

そんな、リリーフ王国・阪神タイガースとともに歩んできたリリーフカーが、今シーズンから大きくモデルチェンジしている。いったい、どんなふうに進化したのか、そもそも野球におけるリリーフカーとはどのような存在なのか、まずは今回のリニューアルを担当した阪神電気鉄道株式会社 甲子園事業部の湯山佐世子さんに聞いてみよう。

湯山佐世子さん。2003年、阪神電気鉄道入社。2006年から2010年まで阪神甲子園球場リニューアルを担当。阪神沿線のプロモーションなどを担当した後、2019年から甲子園事業部で広告・歴史館を担当。大阪出身、地元・西宮在住で、10代の頃は虎風荘の前で選手の出待ちをしていたことも。

阪神甲子園球場(以下、甲子園)に初めてリリーフカーが登場したのは、いつなのでしょう?

今から約60年前の1964年です。当時は現在のような四輪車ではなく、二輪の「リリーフバイク」でした。

1964年3月23日の朝日新聞朝刊の記事(12p)によれば、前日の試合の4回に石川投手が打たれた後、バッキー投手がリリーフバイクに乗ってマウンドに向かったのが最初だったようですね。

当時の写真も残っていますが、交代する投手がスクーターの後ろに座り、いわゆる“二ケツ”状態で運ばれている様子がシュールです。そもそも、どうしてリリーフ投手をバイクでマウンドまで運ぶことになったんですかね?

当時のブルペンは、外野のラッキーゾーン(野球場でホームランが出やすくなるため、外野フェンスのフィールド側に設けられた柵と本来のフェンスの間にある空間のこと。甲子園では1947年から1991年まで設置)の中に設置されていました。そこからマウンドまでは約70メートルの距離があり、歩いていくと結構な時間がかかります。当時の記事には「マウンドまで“ノコノコ”歩いていく」なんて書かれていますが、せっかくの盛り上がりに水を差してしまうところもあったのではないかと思います。そのため、プレーの進行を早めるためにリリーフバイクが登場したということです。

その後、バイクから四輪の「リリーフカー」に変わったのが1970年台半ば。以降は現在まで何度かモデルチェンジしていますが、その途中でリリーフカー自体が廃止されていた期間もあったとか。

はい。1992年にラッキーゾーンが撤去されたことに伴い、ブルペンも1塁側・3塁側の両ファールゾーンに移動しました。マウンドまでの距離がかなり近くなったことで、いったんリリーフカーも役目を終えています。復活したのは1999年のシーズンから。アルプススタンド(外野席と内野席の中間にあるゾーン)の真下の室内練習場にブルペンが移動したため、リリーフカーも再登板することになりました。

大型車は使えない、甲子園の“車庫入れ”事情

1999年の復活後は、割と頻繁に形やデザインが変わっていますよね。

最初はダイハツさんから車両をご提供いただき、そこから約10年の間で何度かモデルチェンジしています。一時期採用していたボール型のリリーフカーは、印象に残っている方も多いかもしれません。

2011年にはリリーフカーのスポンサーがメルセデス・ベンツさんに変わり、9月から電気自動車の「スマート・フォーツー」がリリーフカーとして登場しました。その後も何度か車体やラッピングが変わり、2022年シーズンからはトヨタ自動車(以下、トヨタ)さんの「C⁺pod(シーポッド)」をベースにしたリリーフカーを使用しています。

C⁺podをカスタマイズした新型リリーフカー

1999年〜2010年まではカート型、2011年からは「スマート・フォーツー」や「C⁺pod(シーポッド)」など、基本的にコンパクトな車が採用されています。理由はありますか?

甲子園のリリーフカーは外野席とアルプススタンドの間の通路から出てくるのですが、ここがめちゃくちゃ狭いんです。スマート・フォーツーも小回りが効く車なのですが、それでも車幅ギリギリで慣れていないと“車庫入れ”に苦労します。

苦戦している動画、YouTubeで見たことあります。

今回、リリーフカーを変更するにあたっていろいろな車を検討しましたが、甲子園の通路にフィットするサイズのモデルって、意外となくて。そんな中、やっと見つけたのが「C⁺pod」でした。全幅1290mmとすごくコンパクトですし、BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)なので、球場全体のエコ化に取り組んでいる甲子園のコンセプトにも合います。そこで、私たちのほうからトヨタさんに「C⁺podをリリーフカーとして使わせていただけませんか?」と相談したんです。

阪神甲子園球場ではスタジアムの環境保全に取り組んでおり、今回のリリーフカーリニューアルもプロジェクトの一環だそう

阪神サイドからの働きかけだったとは。そこから、C⁺podをベースにした新しいリリーフカーの開発がスタートしたわけですね。

はい。トヨタさんからは、東京五輪の野球競技のリリーフカーもデザインされた永津直樹さん、同じく東京五輪で聖火リレーの先導車などで活躍したトヨタLQや、バッテリーEVであるbZ4Xの開発責任者である井戸大介さんという、すごい方々をアサインしていただき、トヨタさんと阪神のプロジェクトチームで打ち合わせを重ねながら最終的に現在の形・デザインになりました。

阪神側からはどんな要望を出したのでしょうか?

足の長い選手も多いので、既存のシートだとどうしても窮屈になってしまいます。そこで、球団側からは「足の前方のスペースを広くしてほしい」という要望があり、トヨタさんに相談しました。私たちは車に関しては素人ですから、シートを後ろにズラせばいいのかなと安易に考えてしまっていたのですが、車の構造上、そう簡単な話でもないようで。実現にあたっては、非常にご苦労をおかけしたと思います。

確かに、以前のリリーフカーだと背の高い藤浪晋太郎投手(197cm)などはかなり足を折り曲げて、やや窮屈そうに乗っているようにも見えました。タイガースのリリーフ陣にはアルカンタラ投手(193cm)やケラー投手(193cm)など、身体の大きい外国人投手もいますし、これは大事な改善ポイントですね。どうやって解決しましたか?

シートの位置については、トヨタさん側が車の構造だけでなく、発進・停止時や乗降時の選手の安全を第一に考えたいくつかの案を考えてくださり、何度もやり取りをしました。最終的には試作車に球団関係者が実際に乗った上で、現在の位置に決まりました。

後ほど、実際に乗っていただくとお分かりになると思いますが、前方はかなり広々としています。さらに、シートの位置を高くしたことで観客席からもマウンドに向かうリリーフ投手の姿が見えやすくなりました。スポーツ紙などでは“神輿リリーフカー”などとも表現されていましたね。

確かに神輿っぽさがある

足の長い齋藤友貴哉投手もゆったり座れる(撮影:榎並紀行)

けっこう大胆な改造ですよね。ここまでシートを高くして、安全上の問題はないのでしょうか。

私たちも開発現場の工場に足を運び、試乗を含む検証に立ち会いましたが、安全面でも問題ないという確認が取れたので、この形でいきましょうと。トヨタさん側からは、選手の安全に最後まで気を使っていただきました。最終的にこの位置に決まった後も、つかめる手すりを付けたり、シートベルトをつけていただいたりしました。

インパネとハンドル上部、ステッチにタイガースカラーを使うなど、細部までこだわり抜かれている

本当に細部にまでこだわりがあって、トヨタ側の力の入れようも伝わってきます。でも、そもそもリリーフカーって、こんなふうに自動車メーカーがしっかり開発に関わるものなのでしょうか?

これまでは自動車メーカーさんに車両のみをご提供いただき、ラッピングを専門の会社にお願いするというケースが多かったです。メーカーさんに直接開発に関わっていただくのは、今回が初めてだと思います。私たちにとっては普段ほぼ接点のないデザイナーさんや技術者の方々とプロジェクトを進めることになったのですが、開発期間中は驚きの連続でした。

特に感銘を受けたのは永津さんや井戸さんの、ものづくりにかける思いの強さですね。お二人とも大変お忙しい中球場にも足を運んでいただき、現場と意見を交わしながら情報を集めてくださいました。さらには、永津さんは球場近くのグッズショップにまで足を運ぶなど、あらゆる角度からデザインのヒントを探しているようでした。実際、グローブ型のキーチェーンを「素晴らしい」と気に入っていただけて、それがシートのデザインに活かされているようです。

永津さんが気に入り、自腹で購入したというキーチェーン。写真は筆者の私物(撮影:榎並紀行)。

選手が座るシートはグローブをイメージしている

永津さん、井戸さんをはじめトヨタの皆さんには球団の声、球場の現場の思いを正面から受け止めていただき、それを見事に体現してくださったことを本当に感謝しています。私自身もリリーフカーにここまで向き合うのは初めてでしたので、個人的にも思い入れの強い、特別な一台になりましたね。

ファンを盛り上げる演出にも使われる

この新しいリリーフカー、“現場”での評判はどうなんでしょうか? 例えば、実際に車を動かすTigersGirls(タイガースガールズ)の方から「運転しやすい」みたいな声はありますか?

後ほど直接TigersGirlsのメンバーにも聞いてもらえたらと思いますが、実際に試合で導入する前の練習期間中もスムーズに動かせているようでした。トヨタさんには、開発の際にも実際に車両を持ち込んで運転のレクチャーをしていただいたりしました。

“車庫入れ”の不安も、やや減るかもしれないですね。では、選手の反応はどうでしょう。開幕前には新リリーフカーに試乗したクローザーの岩崎優投手が“らしい”コメントをされていましたが。

岩崎投手、試乗時のコメント「いつも目立たないよう縮こまって(リリーフカーに)乗っていましたが、これからは(シートが高くなり)目立つようになっていますので、堂々と乗りたいと思います」

阪神・岩崎が新調されたリリーフカーに試乗「堂々と乗りたい」 五輪と同じ担当者が手がける」(スポニチ Suponichi AnneX 2022年3月2日より)

常にクールな岩崎投手でも、やっぱりこの“神輿シート”にはテンションが上がるのでしょうか?

どうでしょうか。試乗の時は、いつものポーカーフェイスで乗っていましたけどね(笑)。ただ、これだけ高いと堂々とした気持ちにはなると思います。以前より視界も広くお客さまの顔もよく見えると思いますし、リリーフ投手に直接聞いたわけではありませんが、気分良くマウンドに向かってもらえるのではないでしょうか。まさに、神輿に担がれているような感覚になるのかもしれません。

神輿といえば、タイガースが勝った試合後はこのリリーフカーで、その日のヒーロー選手がグラウンドを1周しますよね(「ビクトリーラン」と呼ぶ)。あの時なんてまさに神輿感があって、ファンを盛り上げる演出にばっちりハマっていると感じます。

取材翌日のナイターではリリーフの湯浅投手がプロ初勝利を挙げてヒーローに。ヒーローインタビュー後、リリーフカーでグラウンドを1周しファンの拍手に応えた(撮影:榎並紀行)

ビクトリーラン自体は以前からやっていたのですが、新しいリリーフカーになってからはより演出にフィットするようになったと思います。やっぱり選手の姿が目立つ分、ヒーローと観客席との一体感が生まれやすくなっているんじゃないでしょうか。

ただ、そのビクトリーランでちょっと気になることがあって。

なんですか?

甲子園のホームゲームでのヒーローって3人選ばれることも多いじゃないですか。でも、リリーフカーはホーム用とビジターチーム用の2台しかないから、1人だけ乗れない。実際、4月15日の対ジャイアンツ戦では青柳晃洋投手、佐藤輝明選手、ロハス・ジュニア選手と3人のヒーローが誕生しましたが、青柳投手が先にリリーフカーに乗り、残る1台を佐藤選手、ロハス選手が譲り合っていましたよね。ロハス選手が「テリヤキ(※ロハス選手は佐藤選手をこう呼ぶ)、ミー、センパイ」と言い、佐藤選手が「どうぞ、センパイ」と返してリリーフカーを譲ろうとするやりとりが中継に映っていて、あまりの微笑ましさに悶えました(実際に乗ったのは佐藤選手)。……つまり、何が言いたいかというと、甲子園球場が所有するリリーフカーは2台だけで、予備の車両はないんですか?

そうですね。予備はないですね。

となると、故障したらどうするんですか?

車の基本的な部分は販売されているC⁺podそのものなので、安心感がありますし、故障しないよう定期的なメンテナンスも地元の販売店さんに協力いただいて、普通の車両と同じ頻度で行っています。ただ、万が一の場合はもう、申し訳ないのですが、ブルペンから走ってマウンドに行っていただくしかないですね。

「藤川球児の引退登板」を疑似体験

現時点でリリーフカーを導入しているのは甲子園のほか、横浜スタジアム、ZOZOマリンスタジアムの3球場のみです。今の球場の多くはそもそもブルペンからマウンドまでの距離が近く、リリーフカーを必要としないためだと考えられますが、単に時間短縮のためだけでなく、野球の文化の一つとして残してほしいと個人的には思います。

そうですね。リリーフ投手が出てくるのはピンチだったり、試合のなかでも特に重要な局面であったりすることが多いですよね。そこで、さらにファンの皆さまに盛り上がってもらう演出要素の一つとしての役割も、リリーフカーにはあるのかなと思います。

実際、球場に投手交代のアナウンスが流れると、ファンはリリーフカーが出てくる通路側に注目しますよね。

普段から甲子園に足を運んでいる方は、そこから出てくることを分かっていますからね。やっぱりリリーフカーに乗って出てくると、堂々としていて強そうに見えるじゃないですか。いかにも抑えてくれそうな、頼りになる印象に映る。そんな効果もあるのではないでしょうか。

撮影:榎並紀行

ちなみに、「俺はマウンドまで走りたいからリリーフカーには乗りたくない」みたいな選手もいるのでしょうか?

実際、いなくはないと思いますが、球団としては基本的に乗っていただくようにお願いをしています。

なるほど。特に外国人投手などはリリーフカー自体を見るのも初めてというケースもあるでしょうし、最初は驚くかもしれませんね。そういえば、2016年から2018年までリリーフとして活躍したマテオ投手が初めて目にするリリーフカーを気に入って、「これ買おうかな」と言ったというエピソードが球団のコラムに載っていました。

マテオがリリーフカー購入!?|阪神タイガース 公式サイト

そうですね。やっぱり日本のプロ野球以外ではあまり目にしないから、新鮮なのかもしれません。

であれば、なおさら残してほしいです。特にタイガースは伝統的にブルペン陣が強く、歴代のリリーフエースがリリーフカーに乗ってマウンドへ向かう姿が目に焼き付いているファンも多いと思うので。

確かに、タイガースファンの皆さまはリリーフカー自体にも愛着を持ってくださっている方が多いように感じます。イベントなどでリリーフカーに乗って記念撮影ができる機会があると、すごく喜んでいただけますから。

最後に、湯山さん個人として、リリーフカーもしくはリリーフ投手にまつわる印象深い思い出などがあれば教えてください。

印象に残っているのは、やはり藤川球児投手の、甲子園でのラスト登板ですね。私は球児さんと同世代ということもあって、その活躍をずっと目の当たりにしてきました。彼がチームのなかでどんどん頼もしい存在になっていく姿も見てきたので、最後のマウンドは感慨深いものがありましたね。

ちなみに、球場横にある「甲子園歴史館」では、藤川投手がリリーフカーに乗って最後のマウンドへ向かう様子を体験できるVRコーナーもあります。リリーフカーに360度カメラをつけて撮影した球場の映像とスタジアムの歓声、藤川投手の登場曲であるLINDBERGさんの「every little thing every precious thing」が聞こえてきて、まるで自分が引退登板に向かうような気持ちになれると思いますよ。

これ、僕も体験しましたが本当に感動するので甲子園に来た人は絶対にやってください。

リリーフカーを運転できるのは約10名の精鋭

リリーフカーに関する教養は深まった。次は、実際にリリーフカーを運転している人にも話を聞いてみよう。TigersGirlsの一員、Kyoka(きょうか)さんだ。

兵庫県出身のKyokaさん。ジャズダンス歴18年、HIPHOP、クラシックバレエ、チアダンス各2年。

KyokaさんはTigersGirls何年目ですか?

今シーズン(2022年)で5年目です。リリーフカーを運転するようになったのは3年前からですね。

ということは、もうリリーフカーの運転も慣れたものですか?

いえ、何回運転しても未だに緊張します。急ブレーキをかけたりすると芝生を傷つけてしまいますし、スピードが速いと選手がびっくりして余計なストレスが掛かってしまうかもしれません。優しく、慎重に運転することを心がけています。

運転時のルールみたいなものもあるのでしょうか?

スピードは15km~20kmで、通るルートも決められています。あとは、芝生を傷つけないよう急停止をしない、停止した状態でハンドルを切らない(タイヤを動かさない)などですね。あとは、雨の日は滑りやすいので、できるだけゆっくり走ります。

新しいリリーフカーは運転しやすいですか?

そうですね。前のモデルより小さくなりましたし、走行音も静かで発進もスムーズです。あと、タイヤの部分が野球ボールになっていて可愛いです。

ちなみに、リリーフカーを運転するメンバーは決まっているのでしょうか?

はい。“運転係”は10人くらいいて、当番制になっています。TigersGirlsの仕事は、試合前のダンスやイニングの合間のパフォーマンスなどがメインですが、ボールガールやリリーフカーの運転も大事な役割ですね。ちなみに、リリーフカー担当は免許を持っていて、運転に慣れているメンバーが選ばれています。

そんな選ばれしメンバーのKyokaさん。推しのリリーフ投手を聞いたが「皆さん紳士なので素敵です」とかわされた。

ちなみに、そんなKyokaさんでも車庫入れは難しいらしい。「だって、こんなに狭いんですよ」と両腕を伸ばしてくれたが、Kyokaさんが小柄なのでむしろ広く見える気もする(実際は激セマです)

では、乗ります

さて、いよいよ新型リリーフカーに乗車させてもらう。

改めまして、全国のタイガースファンの皆さま、こんないい思いをして申し訳ありません。たぶんここが人生のクライマックスなので許してください。

ブルペン横の通路でスタンバイするKyokaさんとリリーフカー

試合中のリリーフカーは室内練習場の横に待機していて、交代する投手をすぐに乗せられるようになっている。そこから5メートルほどの通路を直進すればグラウンドだ。通路の両脇にはスタンドが間近に迫り、頭上からファンの歓声が降り注ぐような設計になっている。

シートが想像以上に高く、身長167cmの筆者は足が浮いてしまってかっこわるい。選手思いのゆったりした設計が、足の短いおじさんには仇となった。

アルプススタンドの端っこからはリリーフカーを見下ろすことができる。ある意味、特等席かもしれない。

ブルペン横をゆっくり発信するリリーフカー。暗い通路から徐々に視界が開けグラウンドの鮮やかな芝生が見えてくると、気分がグングン高揚していく。このピンチを抑えてヒーローになり、ビクトリーランでもう一度リリーフカーに乗るんだという気持ちになる。

難所の狭いゲートを抜けると

グラウンドへ出る。

そのまま外野をゆっくり走る。速度もちょうどいいし、スーッと走る感じで乗り心地がとてもいい。Kyokaさんいわく「マウンドに向かう時に精神統一されている投手が多いので、スムーズな運転で集中の邪魔をしないように心がけています」とのこと。プロ野球選手のパフォーマンスは、こうした一人ひとりの気遣いに支えられているのだなと思う。

内野(土の部分)の手前で停車。投手はここで降りてマウンドへ向かい、リリーフカーは車庫へ向かう。

なお投手目線。とても見晴らしがいい。

ブルペン横からマウンド手前までは正味30秒程度。リリーフ投手の集中力を高めるには、ちょうどいい通勤時間かもしれない。

ちなみに筆者は阪神タイガースが好きなだけで野球経験はまったくないが、リリーフカーに乗っていると自分が勝利の方程式の一角であるかのような責任感と誇らしさが芽生えてきた。やっぱりリリーフカーの存在が投手を鼓舞するところは、少なからずあるのではないかと思う。

紳士なのでKyokaさんに一礼。ちなみに、ほとんどの選手はお礼を言ってくれるそうです。

9回満塁のマウンドへ向かう気持ちで

なお、実際はマウンドはもちろん内野へも入っていない。その先は、部外者が浮かれて立ち入ってはいけない領域のように感じた。

今シーズン、タイガースのブルペンを支えている加冶屋蓮投手はリリーフカーを降りたあと、一、二塁間の最短距離を直進せず、わざわざ一塁側のファールグラウンドから遠回りしてマウンドへ向かう。理由は、一、二塁間を歩いた足跡によってゴロのバウンドが変わり、失点することがあるかもしれないからだそう。

加冶屋投手、コメント「一、二塁間というか、あの守っているところを荒らしたくないっていうことが一番ですかね。イレギュラーして、打球の方向が変わったりすると、後悔するのは自分なんで」

【阪神】加治屋蓮が大回りしてマウンドに向かう理由「野球の神様はグラウンドにいる」悔やむ1球」(日刊スポーツ 2022年6月20日より)

プロの投手が万が一に備えて繊細に踏む大切な職場の土を、私などが荒らせるわけあるかよ。

Kyokaさんは一発で車庫入れを決めていた。

改めて、リリーフカーとは野球というエンターテイメントを支える、素晴らしいアイテムだなと思った。この先もしブルペンがマウンドの近くに移動したとしても、もう絶対になくさないでほしい。近いから走ったほうが早いというなら、わざわざ遠回りしてリリーフカーで出てきてほしい。

私はこれからも、リリーフカーと阪神タイガースを応援し続けます。

リリーフカーも素晴らしいけど甲子園も素晴らしい。世界一美しい球場だと思います。

著者:榎並紀行
編集者・ライター。やじろべえという編集プロダクションを営んでいます。1992年の「亀新フィーバー」の頃から阪神タイガースを応援しています。

Twitter:@noriyukienami


編集:はてな編集部
撮影:浜田智則

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