KINTOさんからまたも奇妙な原稿の依頼である。映画に出てくる「最強のクルマ」ベスト5を勝手に考えてほしい、とのことで……なるほどこれなら、運転免許に根っから縁がないこの私でも、比較的無責任に筆を進めることができそうだ!
しかし、改めて考え始めてみると、これが意外と難しい。
確かに、スター俳優や人気キャラクターに負けず劣らず、スクリーン上で圧倒的な魅力を放ち、長く愛され続けるクルマたち、というのは多数存在する。後年になってもミニカーやプラモデルが継続的に発売されている、というのを支持率のひとつの基準とするならば、『007』の歴代ボンドカーや、『バットマン』の各種バットモービル、『マッドマックス』のV8インターセプター、『ブレードランナー』のスピナー、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン、二輪だけど『AKIRA』の金田バイク、あたりがトップグループということなるのではないかと思うし(どうしたってガジェットみの濃いもの=SF作品が多くなりがち、という傾向は見て取れますね)、個人的には『ミニミニ大作戦』のミニクーパーや、『ルパン三世 カリオストロの城』のフィアット500といった、「ちっちゃくて可愛いクルマの大活躍!」にも、ひときわ胸躍らされるものがある。
しかしそれらを、「最強」という言葉で括って良いものか?
つまり、クルマにとって「強い」とはなんぞや、というところから、最初にしっかり線引きをしておかないとならないのではないか……さもなくば、単にお馴染みもしくはお好みの車種を並べただけの、安易なラインナップになってしまいかねない、ということに、私自身遅まきながら気付かされたのである。思ったよりメンドクサイこの企画!
ではまず、「強さ」というのを直接的な「攻撃力」として考えてみるとどうなるか。
素直に思い浮かぶのは当然、ミサイルやマシンガンなど火器類を装備している、というパターンだが……それってホントに「クルマが強い」と言えるのか? 攻撃力を有しているのはあくまでその火器類であって、クルマ自体はそれらの運搬手段に過ぎない、ということになるのではないか。自動車形態は仮の姿に過ぎない『トランスフォーマー』然り、隙あらばこちらに飛び移ってくる異常に好戦的な人間たちこそが脅威である『マッドマックス』然り。最終的にはなんなら自爆的なものも含められてしまうなど、一種軍拡競争的な不毛さも漂い出すので、この方向は今回、除外!
そうではなく、クルマそのものが凶器と化して襲い掛かってくる、というケースならどうか。『激突』で主人公を執拗に追い回すタンクローリーはまさにその代表格だろうし、『デス・レース2000』に出てくる奇妙なレースカーなどは全て、まさにその目的のために作られてさえいるわけだけど……よくよく考えてみると、「車体をぶつける」のが攻撃だと言うのなら、それってつまり、「耐久力」の勝負なんじゃね?
要は、クルマにとっての「強さ」って、どれだけ酷使しても壊れず、運転者の安全を守れるか、というごくごく真っ当な一点に、結局は集約され得るんじゃないか。KINTOに納入するコラムとしても、これは最高に穏当な結論だ!
ということで、ようやくここからが本題。映画に出てくる「最強のクルマ」ベスト5、今回は特に、「耐久力」「防御力」に焦点を当てて、私なりに選んでみることにした。
第5位:『ブルース・ブラザース』(1980年)

© 1980 Universal Studios. All Rights Reserved.
まず第5位は、『ブルース・ブラザース』(1980年)で主人公たちが乗り回す1974年式ダッジ・モナコ、通称ブルース・モービル! まるでオモチャのように大量の(本物の!)クルマたちが次々とクラッシュしてはポンポンポンポン山と積まれてゆくクライマックスは、いまだに「映画史上最もド派手で楽しいカースタント」の座を譲っていないと思うが、ともあれそんな、常勤を逸した物量投下型スラップスティック・シークエンス(=修羅場)の数々を乗り越えてきた、このオンボロ払い下げパトカー。ついに目的地に到着して、主人公たちが降車したまさにその瞬間、なんとバラバラに自壊してしまう! 無論、撮影用途別に何台か用意されていたうちの「バラバラ自壊専用車」がそこでは使われているわけだが、ともあれこの「目的を達したところで、ちょうど息絶えた」かのような描写が、「よくぞここまで耐え切った!」的に、逆に同車のタフさと健気さ、キャラクターを強く印象付ける効果をもたらしているのだ。

『ブルース・ブラザース』
発売中
Blu-ray 2,075円(税込)
DVD 1,572円(税込)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
第4位:『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)

© 2007 The Weinstein Company,LLC. All rights reserved.
第4位には、一見して前述したような「クルマそのものが凶器」となる単純なパターンのようでいて、実のところその「防御力」の徹底をこそ陰湿な攻撃性に転化している、という珍しい例として、『デス・プルーフin グラインドハウス』(2007年)前半でカート・ラッセル演じる変態殺人鬼スタントマン・マイクが乗る、「耐死(デスプルーフ)仕様」化されたシボレー・シェビーII・ノバを推したいと思う。映画などのカースタント撮影用にカスタムされているというその車体は、運転席のみが大きな衝撃にも耐えられるようガッチリ守られているため、カメラ設置用にシートごと取り除かれた助手席ゾーンにうっかり閉じ込められた者は、マイクが急激に加速・減速したりハンドルを切ったりするたびに、ガツンガツンと四方八方に体を叩きつけられる地獄の責め苦を味わうことになるのである……「運転者の安全」をここまで胸糞悪く暴力的に悪用するなんて、タランティーノ以外に誰が思いつくだろうか? もっとも後半では、この最低最悪のゲス野郎に、(劇場公開時にはホントに毎回拍手が湧き上がっていたくらい)痛快極まりない鉄槌が下されることになるので、ご安心を!

『デス・プルーフ』
Blu-ray&DVD発売中
発売元:ブロードメディア
販売元:NBCユニバーサル
第3位:『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)

NO TIME TO DIE © 2021 Danjaq & MGM. NO TIME TO DIE, 007 Gun Logo and related James Bond Trademarks, TM Danjaq. Package Design © 2021 MGM. All Rights Reserved.
第3位は、いきなりの大ネタで恐縮だが、ご存じボンドカー仕様のアストンマーティンの中でも特に、まだまだ記憶に新しい『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)序盤に登場するバージョンを。ボンドカーと言えばマシンガンやミサイルなど火器類の装備が印象に残りがちだが、ショーン・コネリー時代のアストンマーティンにはリア・ウィンドウ防御のために鉄板がせり上がってくる、という仕掛けがしっかりあったし、かの有名な「飛び出す助手席」も、方向性としては守備的なギミックと言えるだろう。その点『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のアバンタイトルに登場するアストンマーティンDB5は、どうやら車体全体がかなり強力な防弾仕様に改造されているようで……敵に取り囲まれたボンドは(ドラマ上のある理由から)あえて、ボンドカーの防弾性能を限界まで試すが如く、銃弾の雨あられを、無抵抗で受け続けてみせる! 同じダニエル・クレイグ=ボンド作品でも、前前作の『スカイフォール』ではアストンマーティンが蜂の巣になっていたのだから、これはかなりの進化ぶりと言える(前作『スペクター』でのQによる改修が優秀だったのだろう)。それだけに、ドアウィンドウに至近距離でショットガンを何発も連続で発砲され、ついにヒビが入りだす、という展開の緊迫感も増すわけで……いずれにしても、尋常ならぬ耐久力、防御力であることは間違いない。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
発売中
ブルーレイ+DVD(ボーナスブルーレイ付き)4,980円(税込)3枚組
4K Ultra HD+ブルーレイ(ボーナスブルーレイ付き)6,980円(税込)3枚組
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
第2位:『ガントレット』(1977年)

© 1977 Warner Bros. Inc.
しかし、「銃弾の雨あられ」と言うなら、こちらはそれがもはや比喩表現とは言えない領域にまでエスカレートしてしまっているのが、クリント・イーストウッド監督・主演の『ガントレット』(1977年)クライマックスだ。政治的陰謀により追われる身となってしまった主人公たちは、運転席を鉄板で補強した観光バス、1962年型イーグル・モデル01に乗り込み、証人を裁判所に送り届けるべく、ノロノロと正面突破を試みる……一方、そこに待ち構えていたとんでもない数の警官隊は、容赦なく一斉射撃を開始する! 浴びせられる弾数は恐らく数千発というレベルで、小火器による銃撃ということで言えば、映画史上でもぶっちぎりの分量ではないかと思う(あまり現実的な攻撃方法とは言えないため……言うまでもないが、タイヤやエンジンも散々被弾して即使い物にならなくなっているはずだが、といった野暮なツッコミはしないでおくのがマナーというものである)。見る見るボロボロになってゆき、最後にはやはり精魂尽き果てたかのようにプスンと停止することにはなるけれども、とにもかくにもなんとか目的地までは到達してみせたそのド根性には、警官隊たちも思わず圧倒され、ついには全員しおらしく銃口を下ろしてしまうほど。ということで、この見すぼらしくも神々しい即席装甲バスが、第2位!

『ガントレット』
発売中
Blu-ray 2,619円(税込)
DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
第1位:『クリスティーン』(1983年)

©1983 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
そんなのを上回る耐久性、防御力などあるのだろうかと思われるかもしれないが……『クリスティーン』(1983年)のタイトルロールである1958年型プリムス・フューリーは、無機物でありながら意志をもって人を殺し続けてきた魔性のクルマ(言わば自動車版の『チャイルド・プレイ』というか)なのだが、出色なのは、なんと「自己治癒力」まで備えているということだ! 中盤、ゴロツキたちによって徹底的に破壊されたかに見えたクリスティーンが、キース・ゴードン演じる青年とのどこか恋愛めいた関係を通して再び力を回復し、ひしゃげたボディをグニグニと元通りに再生させてゆくくだりの不思議なエロティックさは、本作特有の味わいと言えるだろう。その後も、火だるまになったまま人を追い回したり、ラストではすっかりスクラップにされてなお、まだまだ衰えぬ生命力の片鱗を覗かせてもいるのだから……セクシーにして不死身、これを「最強」と呼ばずしてなんと呼ぶ? そんなわけで、1位は『クリスティーン』!

『クリスティーン』
発売中
Blu-ray 2,619円(税込)
DVD 1,408円(税込)
4K ULTRA HD 5,217円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
ちなみに次点は、ティム・バートン版『バットマン』(1989年)のバットモービル。停車時には音声指示で鎧のようなシールドが車体全体を覆う、という言わば完全防護モードがあるため、防御力という意味ではこれが最強のようにも一瞬思えるのだが……次作『バットマン リターンズ』で、ペンギン率いるサーカスギャング団にあっさりシールドを解除され、逆に罠まで仕掛けられてしまう、という意外な脆弱さを露呈したので、惜しくも選外となった次第。
とまぁこんな風に、皆さんもご自分なりのロジックで、「最強のクルマ」についてあれこれ思いを巡らせてみてはいかが? 楽しいよ!

著者:宇多丸(うたまる)
1969年東京都生まれ。ラッパー/ラジオパーソナリティ。 1989年にヒップホップ・グループ「ライムスター」を結成。日本ヒップホップの黎明期よりシーンを牽引し第一線での活動を続ける。また、ラジオ・パーソナリティとしても注目され、2009年にはギャラクシー賞「DJパーソナリティ賞」を受賞。Eテレ毎週水曜日18:45からOA中のTVアニメ『宇宙なんちゃら こてつくん』主題歌「2000なんちゃら宇宙の旅」は配信中。
Twitter:@_rhymester_
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