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10年後にはクルマが普通に空を飛ぶ社会へ。空飛ぶクルマの現在と未来

10年後にはクルマが普通に空を飛ぶ社会へ。空飛ぶクルマの現在と未来

いま、SFやファンタジーの世界で描かれるような「空飛ぶクルマ」の開発が国内外で進められています。それも50年、100年後の話ではなく、数年のうちに社会に実装されるかもしれません。

株式会社SkyDriveは、日本におけるエアモビリティ開発のトッププレイヤー。2020年8月に有人飛行試験に成功するなど、2025年ごろの事業化に向け“本気で”取り組んでいます。

実現のためには、機体の開発だけでなく、安全性の担保や社会的受容性の向上、法整備などさまざまな要素が絡みますが、社会実装に向けて官民共同のロードマップを策定し着実に前進しているのだとか。空飛ぶクルマの現在地や課題、そして空飛ぶクルマがもたらす未来について、SkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩さんに伺いました。

SkyDrive代表取締役CEO福澤知浩さんにリモート取材でお話を伺った

飛行の安定性とコンパクトな機体を両立した空飛ぶクルマ

――福澤さんがSkyDrive社を立ち上げられるまでの歩みを簡単に教えていただけますか?

福澤知浩さん(以下敬称略):トヨタ社に在籍していた時、社内外問わずいろいろな企業の有志が集まり「新しいモビリティについて考える」団体である「CARTIVATOR」に所属していました。その中で議論を繰り返し、多くの経験知を積みながら、「空飛ぶクルマができたらいいよね」という話になり少しずつ「空を飛ぶ新しいモビリティ」を作り始めたんです。

ある程度開発が進んでクルマが実際に飛ぶようになり、世間での「空飛ぶクルマ」の実現性もある程度認知され始めた頃合いに、SkyDrive社を設立しました。

――SF映画の中で「空飛ぶクルマ」が出てくる作品はたくさんあると思いますが、その中でも印象に残っている作品などありますか?

福澤:だいたい全部の作品が印象に残っていますね(笑)。強いて言うなら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに登場するデロリアンでしょうか。「生ゴミを燃料にして飛ぶ」というところも印象的ですね(笑)。我々の「空飛ぶクルマ」もクルマに近いデザインなので、そういった意味でデロリアンとは重なる部分があり、印象に残っていますね。 

――クルマのデザインを意識して開発されていたんですね!SkyDriveの「空飛ぶクルマ」とは、どういったものなのでしょうか?

福澤:正式名称は「電動垂直離着陸型無操縦者航空機(eVTOL/electric vertical take off and landing)」で、電動化、完全自律の自動操縦、垂直離着陸ができるクルマです。

SkyDrive社の「空飛ぶクルマ」コンセプトモデル「SD-XX」。最高飛行速度は100kmで高度500mまで上昇できる©SkyDrive

基本的な仕組みはドローンと同じで、モーターの回転数をコントロールし、プロペラが生み出す揚力を調整し、機体を制御しています。ただ、人が乗れるほど機体を大きくするとなると、ドローンのように安定して飛ばすのは簡単ではありません。プロペラのサイズが大きくなれば回転数を上げるのに時間がかかり、出力が十分に出る前に機体が傾いてしまうからです。この課題を解決するため、プロペラの回転数をプログラムで制御したり、機体のフレームの重量や強度を最適化したりと、時間をかけて試行錯誤してきました。

――ただ、試作機を含めた機体のデザインはドローンというより、地上を走るクルマに近いですね。

福澤:機体をコンパクトにすること、そして、クルマに近いデザインにすること。この2点はかなり意識しました。まず機体のサイズですが、人を乗せて飛ばすだけの揚力を得るにはプロペラのサイズがどうしても大きくなってしまいます。そこで、プロペラを2枚重ねる「二重反転プロペラ」という仕組みを取り入れ、8枚のプロペラを4箇所に留めることにより世界最小クラスの機体サイズを実現しました。

また、デザインは前後が分かるスタイリングや流線型のフォルムを採用し、クルマらしさを意識しています。将来的に日常の交通手段として使っていただくためには、子どもから大人までが親しめるデザインがいいだろうと考えました。

試作機「SD-03」のデザイン画(「The progress of SD-03 Dsign」より)©SkyDrive

開発から2年で公開有人飛行に成功

――ちなみに、エアモビリティの分野ではどの国が先行しているのでしょうか?

福澤:現在、eVTOLやUrban Air Mobilityといった空飛ぶクルマの開発が、世界各国で進められています。なかでも、先行しているのはアメリカとドイツ。また、日本に比べて飛ばしやすい環境が整っている中国でも、実用化に向けた開発競争が行われています。

なお、米モルガン・スタンレーの試算では、e-VTOLの市場規模は2050年ごろに900兆円を超えるとされています。そのなかで、SkyDriveは空飛ぶクルマの国産メーカーとしていち早く事業化し、日本の産業を盛り上げていきたいという思いも持っています。

――では、競合他社と比較して、SkyDriveの優位性を教えていただけますか。

福澤:まずは、機体がコンパクトなため、どこでも離発着ができること。最新の試作機「SD-03」は1人乗り用の機体で全長4m、幅4m、全高2mです。将来的には全長4m、幅3.5m、全高1.5mまでコンパクトにして、コンビニの駐車場といった身近な狭い空間での離着陸できるような、2人乗りの世界最小サイズの機体を目指しています。

また、もう一つは開発スピードの速さですね。2018年から機体の開発に着手し、翌2019年には有人飛行試験による操縦性、飛行安定性の技術検証を行いました。さらに翌年の2020年8月には、試作機「SD-03」での公開有人飛行試験に成功しています。現在は2025年ごろの事業開始を目指し、着実に機体開発を進めているところです。

2020年8月に行われた「SD-03」での有人飛行試験の様子。一人乗りの試作機で電動で駆動し、垂直離発着が可能。最高時速は40-50km(「The progress of SD-03 Dsign」より)©SkyDrive

――なぜ、そこまでの開発スピードが速いのでしょうか?

福澤:「いい場所」と「いい人」に恵まれているから、だと思います。まず、「いい場所」については、愛知県豊田市にある1万m2以上の開発拠点「豊田テストフィールド」をはじめ、昼夜問わず試験ができる場所があります。次に「いい人」ですが、SkyDriveには多方面の技術のスペシャリストがいます。「空飛ぶクルマ」の開発にはドローン、航空機、モーター、電気、自動運転など、さまざまな要素が必要なのですが、各分野に長けたメンバーが揃い、機体開発を一貫して自社でリードできる点は強みだと考えています。

実用化に向け、周辺環境の整備はどの程度進んでいるのか?

――2018年に官民協議会が「空の移動革命に向けたロードマップ」を策定し、目標として2023年の事業開始、その後の実用化に向けた道筋が示されました。現時点では、このロードマップ通りに進んでいるのでしょうか?

福澤:はい。おおむね、このプラン通りに進んでいます。2021年現在では主にマップの左側部分を弊社以外の企業や大学教授を含め、官民が協力して進めている状況です。

空の移動革命に向けたロードマップ(出典:経済産業省)

福澤:このロードマップのなかで、弊社が大きな役割を担うのは「事業者による利活用の目標」(マップ上部の赤色部分)と「機体や技術の開発」(マップ上の青色部分)です。特に、「試験飛行・実証実験」の部分は機体メーカーとして私たちも積極的に行っています。そこで得られたデータを国交相へ定期的にフィードバックし、機体の安全性の基準などを随時すり合わせながら開発を進めているところですね。

一方で、国には制度や体制の整備(マップ中央の緑色部分)を担っていただいています。空飛ぶクルマにおける最適な型式証明(※)などについても詰めていただき、2021年10月29日にはSkyDriveが「空飛ぶクルマ」としては国内初となる型式証明の申請を行い、受理されました。これを取得できれば航空機レベルの安全性が担保されることになり、お客様にも安心して乗っていただけるのではないかと考えています。

(※)型式証明……航空法第11条に基づき、新たに開発された航空機の形式が、安全性や環境適合性が基準を満たしていることを証明するもの

――国土交通省の発表では、今後は機体開発の進捗に合わせて、型式証明審査を適切に進めるとしています。こうした迅速な動きからも、国がかなり本腰を入れていることが伺えます。

福澤:国や自治体はこうした新しい取り組みに対して腰が重く、動きが遅いイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、このプロジェクトに関してはむしろ前のめりですね。2021年の4月には国交省に「次世代モビリティ準備室」も新設され、月に1回は国交省や経産省の方々とさまざまな協議を行っています。

また、2021年9月には大阪府、大阪市と連携協定を結び、空飛ぶクルマの社会実装とビジネス化に向けた実証実験、環境整備などを進めていくことになりました。

私たちだけでなく国や自治体のみなさんもかなり本気で、新しい産業を起こしていこうという気概を感じますね。

――ただ、社会実装にはさまざまな環境整備も必要になります。例えば、法律の整備、充電スポットの整備やパイロットの問題はどのように考えていますか?

福澤:法律の整備については、先ほど申し上げた通り、官民協議会で国交省を中心に、最適解を模索している状況です。現段階では、「空飛ぶクルマ」は航空機に分類されるので、基本的には「航空法」を適用する形で安全性などを担保していくことを目指していきます。

充電スポットについて、弊社の機体は100%電動車ですので、従来のEV車の規格に合わせることで既存の充電スタンドを活用することを検討しています。空飛ぶクルマに合わせて新しいインフラを整備するのではなく、基本的には今あるものを流用していくスタンスです。特別な環境を必要とすることなくすぐに社会へ導入でき、どこからでも移動が可能になることを目指しています。

また、運転に関しては最終的に完全自動化を目指していますが、やはり当面はパイロットがいてくれた方が安心だと思います。ですので、まずはパイロット1名、乗客1名の2人乗りからスタートすることになると思います。

――2025年の事業化に向けて、現時点での課題を教えていただけますか。

福澤:細かな課題はいくつもありますが、大きく分けると2つかなと思います。まず性能面では、バッテリーです。重量あたりの電力量が上がればそのぶん飛行距離も伸びるので、開発企業の方とお話をしながら、どんな仕様が望ましいか詰めているところです。 

次に、社会受容の醸成です。やはり車が頭上を飛び交うことに対して、安全性やプライバシーの観点から不安を感じる方は多いでしょう。先ほどの型式証明の取得にも通じますが、飛行機と同じ安全性があることを理解していただいたり、プライバシーをどのように守るかについて地道に伝えていくことも必要です。こうした取材や講演、あるいはオウンドメディアやYouTubeなども含めて、どんどん発信していきたいですね。

10年後、クルマは当たり前に空を飛び、暮らしが変わる

――まずはどのような形で社会に導入することを考えていますか?

福澤:直近の大きな目標に置いているのが、2025年の大阪万博です。万博を通じて、世界中のお客様にも乗っていただき、空飛ぶクルマのある未来を体験してもらいたいと考えています。

その後、遊覧や短距離移動といったエンタメ用途から実用化し、「空を移動する楽しさ」を体験していただきたいと考えています。その後は法制度の整備や社会的受容性の向上、性能の向上に伴い、社会実装の範囲を広げていきます。エアタクシーや救命救急での活用のほか、最終的にはシェアライドのような形で、スマートフォンで予約すると目の前まで自動で飛んできて、目的に到着後はその場所に乗り捨てられる。そんなSFのような世界を実現したいでですね。

――ちなみに、現時点での想定販売価格はいかほどになるのでしょうか?

福澤:不確定要素が多いため、あまり具体的な数字は出せませんが、現時点では「スーパーカーと同額くらい」という表現でお伝えしています。ただ、価格については社会実装が進み量産ができるようになれば自ずと下がっていきます。乗ってもらえる方が増えれば増えるほど、地上を走るクルマの価格に近づいていくのではないでしょうか。 

空飛ぶクルマのコックピット(イメージ)。動画「空飛ぶクルマ”SkyDrive”のある未来 Future World with SkyDrive」より

――空飛ぶクルマが実現すると、私たちの暮らしはどう変わるでしょうか?

福澤:まず「時間の過ごし方」が大きく変わります。自動運転が実現すれば移動中の車内でいろんなことができるようになりますし、何より地上を走る車の3倍、4倍のスピードで目的地に到着するため、移動時間そのものが大幅にカットできるでしょう。

また、「住む場所の自由度」も広がるはずです。これまでは通学や通勤場所へのアクセスを考慮し、鉄道の駅周辺に住むのが一般的でした。しかし、これからは従来の交通利便性に左右されず、単純な「直線距離」で場所を選べるようになる。従来の交通インフラに関係なく、直線距離が同じなら同じ時間で移動できるため、住む場所の選択肢が増えると思います。

――お話を伺って改めて、空飛ぶクルマが現実のものになろうとしていることを実感しました。決して夢物語ではないと。

福澤:例えば、1998年にWindows 98が出た時点では、その20年後にスマートフォンができ、ここまで一般化していることを誰も想像できなかったと思います。

それと同じように、現時点でクルマが日常的に空を飛んでいる風景を具体的に想像できる人は、そう多くないかもしれません。しかし、10年後、20年後には当たり前にみんなが利用している社会がやってきます。目前に迫ったエアモビリティ社会の実現に向けて、これからも邁進していきたいですね。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
編集:はてな編集部

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