臨場感あふれるミニカーレース動画がコロナ禍で人気急拡大。今やチャンネル登録者数53万人を誇る3DBotMakerことAdriel Johnson氏 (カリフォルニア在住) が日本メディアに初めて語るミニカーレースの舞台裏とはーー。
――― “Dicast Racing League” (ミニカーレース)の動画がダイナミックすぎて、初めて観た時に度肝を抜かれました。動画を作り始めたきっかけは何だったんですか?
Adriel (以下A): 11歳になる息子が小さい時にミニカーで遊ぶのが大好きだったんだ。それで僕も一緒になって遊び始めた。自分は子どもの頃ミニカーで遊んでいたわけではないから、大人になってからの趣味ってやつになったよ。レースにもハマって3Dプリンターでコースを作るようになった。これが僕のYouTuber名 “3DBotMaker”の由来。それで、自作コースを販売するビジネスを始めたのさ。
動画は自作コースの宣伝のために作り始めたんだけど、やり始めたら楽しくなっちゃって。気づいたら3Dプリンター製品よりも大きいビジネスに成長していたんだ。
―――でも、YouTubeの動画制作って急にできるものじゃないですよね?撮影編集技術はどこで身につけたんですか?
A : ビデオ撮影はね、高校生の時から好きだったんだ。もちろん、アマチュアレベルだよ。それから写真をかじった時期もあったね。オーディオ編集に関しては、実は、僕ミュージシャンという一面もあってピアノが弾けるから、それがもとになっている。
3DBotMakerとして活動する前は、コンピューターの技術者として働いていたよ。知らず知らずのうちに動画制作に必要なスキルを習得していたって感じだね。
――― 3Dプリンターを駆使してレースコースを作る魅力って何でしょう?また逆に、難しさっていうのもありますか?
A: 3Dプリンターの最大の魅力っていうのは、自分1人で0からすべてを作れちゃうところかな。構想を練って、デザインして、それからリアルな部品を作るでしょ。そんなにお金をかけることもなく、思ったものを形にできちゃう。
3Dプリンターで作った部品は、射出成形(*1)した部品よりも壊れやすいから、それが欠点かな。
(*1)プラスチックなどの合成樹脂を金型に押込み、型に充填して成形する加工法
――― 今までで一番大きな投資は?
A: 3Dプリンタービジネスにおいては3Dプリンター。YouTube動画ビジネスにおいてはビデオカメラだね。撮影では5、6台のカメラを使うんだよ。
――― YouTubeで生計を立てているんですか?いつから?
A: 今は、YouTubeの広告、商品販売、それからスポンサーシップからの収入で生計を賄ってるよ。2020年はコロナが追い風になって視聴回数が一気に伸びた。おかげでコスパが悪い3Dプリンタービジネスはやめることができたんだ。
補足しておくと、コンピューター技術者の仕事を辞めたのはとっくの昔。息子が生まれて6ヶ月経った頃だった。家で過ごす時間がもっと欲しかったから、安定した仕事を捨てて、自分で何かビジネスを始めようと思ったわけ。ここまで来るのは、実際にはとても長い道のりだったんだ。
――― そもそも、車は昔から好きなんですか?愛車は何を?
A: 子どもの頃父親と一緒にオートショーやレースをよく観に行っていた。そうしているうちに車への情熱みたいなものが育っていったんだよね。
過去には、ポンティアックのファイヤーバードとかソルスティス、ホンダ・エレメントなんかに乗っていたよ。でも今は、みすぼらしくて何の変哲もないピックアップトラックに乗っているよ。子どもが出来てから、2シーターよりも実用性が高いトラックがよくなっちゃったんだ。
――― ミニカーの魅力について教えてくれませんか?好きなメーカーはありますか?
A: みんな好きな車ってたくさんあると思うんだけど、それを全部所有することって不可能だよね。ミニカーを集めれば、大きさこそ違えど、雑誌やテレビで見てきた自分の「ドリームカー」を所有してる感覚を味わえる。それがミニカーの最大の魅力だよ。
ホットウィールは速い。スピードの王様だね。ルックスで言えば、トミカとグリーンライトが好き。速くは走れないけど、細部にこだわって作られている。
好きな車のカテゴリーは、ランボルギーニやフェラーリなどの外車。僕自身が80年代生まれということもあって、80年代の車が好きなんだ。中でもランボルギーニのカウンタックがお気に入り。ポンティアック・ソルスティスは昔持っていたから、大好きだよ。
それから、僕はJDM(*2)ファンなんだ。かなりたくさんコレクションしているよ。トヨタのAE86がいちばん好きだね。理由は、頭文字Dが好きだからだよ。
(*2)JDMとは : 日本国内市場を意味する “Japanese Domestic Market” の略で、元々はアメリカで販売されていた日本車を日本仕様に仕上げるカスタムを指したが、そこから転じて、日本のアフターパーツメーカーが販売する部品を使ってカスタムする手法のことも意味するようになった

Adrielのベスト・オブ・ベスト。左からランボルギーニ・カウンタック、ポンティアック・ソルスティス、トヨタ・AE86
――― トミカについて、どう思いますか?
A: 実は、トミカはそんなに持っていないんだ。というのも、アメリカで売られるようになったのはここ数年なんだ。あまりラインナップはよくないんだけど、今はウォルマートで手に入るよ。持っているのはトヨタ AE86だとか、赤城レッドサンズのリーダーが乗っているマツダ RX-7とか。
確か、僕のレースで走ったトミカは過去にたった1台だけ。ランチアのストラトスだよ。さっきも言ったけど、トミカは見た目は超いいんだけど、スピードは出ない。だから勝てなかったよ。
――― YouTube動画制作の舞台裏について、根掘り葉掘り聞かせてください。どんな体制で作っているんですか?
A: レースを撮影するのも、動画を編集するのも、サウンドエフェクトや実況をつけるのも僕。その他にも色々なやり取りとかあるでしょう?それも全部僕。すべてを1人で回しているんだ。
――― 1人でこなすには仕事量が多すぎじゃありません?どんなスケジュールでビデオを作るんですか?
A: 今は基本的に週に2本の動画をアップしているんだ。1本のビデオを作るのに大体2日かかる。1日目は撮影と編集をして、2日目は音響。サウンドエフェクトをつけるのに結構時間がかかるよ。

撮影スタジオは、なんと車のガレージ。ここで熱いミニカーレースが繰り広げられる
――― もっと時間がかかるものかと思っていました。
A: シリーズものの場合、フォーマットがすでに決まっているから2日あれば出来てしまう。ただし新しいトーナメントの動画制作ってなると、ミニカーやコースの準備だったりグラフィックを作ったりって、もっと時間がかかるよ。
――― 普段の1日ってどんな感じなんですか?
A: レース撮影も編集も、すべてのプロセスが楽しくて、半分遊んでいるようなものだからあんまり「仕事」って感じがしないんだよね。しいて言えば、事務系の作業が得意じゃないから、メール処理なんかを1日のはじめに終わらせるようにしているよ。

米カルフォルニアの自宅スタジオでインタビューに答えるAdriel Johnson氏。素顔は育メンでナイスガイ
――― 視聴者には、3DBotMakerのミニカーレース動画のどんなところに注目して欲しいですか?
A: 僕の動画って、子ども向けに作っているんじゃなくて、ターゲットはあくまでも大人なんだ。色々な想像にふけったり、おもちゃで遊んだりしていた子どもの頃を思い出してもらえたらな、なんて思いを込めてビデオを作っている。大の大人が、どこかの誰かがミニカーレースして遊んでいる動画を見るなんて馬鹿らしい、って最初は思うかもしれないけど、実際そこからみんなハマっちゃうみたいだよ。
「動画が子どもと一緒に遊ぶきっかけになりました」みたいなコメントをくれる視聴者もたくさんいて、それも嬉しいよ。
僕の動画を見る時は、僕が吹き込んでいる実況中継に特に注目して欲しいな。BGMが流れたり、要所要所にサウンドエフェクトが入ってるようなレース動画とは、ここが違うんだ。興奮気味の実況中継を加えることによって、視聴者は動画にもっともっとのめり込めると思うんだ。
――― 日本からDicast Racing Leagueに参加するにはどうすればいいですか?
A: 今は参加受付を一切停止している状態なんだ。昨年、世界各国から予想以上の数のミニカーが送られてきてしまって。まだ箱の中で待機中のものもたくさんあるくらいだよ。今手元にあるすべてのミニカーがレースに出場するには多分あと1、2年かかるかもしれない。今までに送られてきたミニカーは合計で300〜500台ってところかな。
――― 大盛況ですね。3DBotMakerチャンネルの今後の展望は?
A: レースコースを増設したいな。今は2本しかないから、これを5、6本まで増やせるとバラエティーがあっていいよね。
あとは、おそらく今年中にデモリション・ダービー(*3)を始めるよ。今やっているラリーやストリートレース以外にも、レーススタイルを増やしていきたいと思っているんだ。
(*3)デモリション・ダービーとは: 和訳は破壊レース。車同士をぶつけて壊しあいながら最後の1台を目指す競技

2本あるコースの1つ。ラリーイベントで使用しているコースがこちら
――― 最後に、日本のKINTOマガジンの読者にメッセージをください。
A: 7月にJapanese Nostalgic Carと組んで日本車オンリーのトーナメントを開催するので、ぜひ見てください。日本車ファンの僕は、今もうすでにとてもワクワクしているよ!
取材/文:Tres Platos

Adriel Johnson(3DBotMaker)
1982年アメリカ生まれ、カリフォルニア州リビングストン在住。2014年に3DBotMakerとしてYouTubeチャンネルを開設し、2018年から本格的にミニカーレースの配信をスタートさせる。2021年にチャンネル登録者数50万人を突破した人気のミニカーレースユーチューバー。
オフィシャルサイト:https://www.3dbotmaker.com
Youtube:3Dbotmaker