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しまおまほエッセイ「もしも免許がとれたなら」

しまおまほエッセイ「もしも免許がとれたらなら」
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 出演中のラジオ番組で「無免許特集」というのをやった。運転免許を持たない人々で車について語る、という特集。免許を持たないわたしが出した企画案だ。正確には「無免許」ではなく「未取得」と言うべきらしいが、その違いにもいい加減なほどに、運転免許に関して無頓着な我々だった。

 出演する免許未取得者はラッパーの宇多丸さん、ミュージシャンの掟ポルシェさん。「運転席が右側か左側どちらかに寄っているのはおかしい。ハンドルは真ん中にないと真っ直ぐ走れるか不安だ」と憤ったのは自身のアーティスト名に車名が入っている掟さんだ。「たしかに!」とわたしが膝をうつ。右ハンドル、左ハンドルと車によって違うのに、みんなちゃんと事故なく走っているというのは、不思議な話だ。F1のレーシングカーのように運転席が一席の先の尖ったクルマの方がうまく走れるのではないか。では、運転席をひとつにして乗員数を減らさないようにするにはどうしたらよいか?2階建にしたらいいのでは、いや、高さ制限のある高架下では困る。では乗員が乗るメインのブースの上に覆い被さるように運転手が乗り、ハンドルを握るのはどうか、となった。そうだそうだ、それがいい。わたしたちはナットクして番組は終わった。

 我が家は昔から車を持たない家だ。祖父母、両親、誰も免許を持っていない。しかし、家に駐車場はある。50年前に母の弟がマイカーを買い、家の改築と合わせて作った駐車場だ。ちなみにその叔父のマイカーを友人に貸すことになった時、叔父の免許も一緒に貸した母。わたしのオンチは母ゆずりだと思う。叔父はマイカー購入後まもなく自損事故を起こし(叔父も別の意味でオンチだ)、車は廃車。我が家は車がないのに駐車場をもつことになった。わたしが小学生の頃は竹馬、一輪車、縄跳びの練習場としてよくこどもが集まっていたが、今は自転車とゴミバケツ置き場として存在している。

「都内に住む人は、みんな駐車場代に頭を悩ませているんだよ」

 と、車をもつ友人は言う。だから、家に使っていない駐車場があるなんて宝の持ち腐れだと。そう言われると、確かに勿体無い気がしてきた。いや、駐車場の問題があろうとなかろうと、ことあるごとにわたしは教習所のホームページを覗いては、今年こそ…行くか?と自問しているのだ。

 例えば、ホームセンター、フラワーパーク、そしてIKEAに行きたいと思ったら、まず車を出してくれる誰かを探さなくてはいけない。頼みやすい友人は何人かいるものの、仕事だったり、家族が車を使っていたり、子供がまだ小さかったり、腰痛持ちだったり。いくつものハードルが現れる。わたしは港北へ行く度、IKEAの青い看板を背に『次回は自分の車で…』と夢を見るのだ。

 年に数度、親戚の住む奄美大島へ遊びに行く。奄美は車社会だ。車を持たない我が家の移動は73歳になる父の小学校の同級生数人が頼り。毎回演歌がBGMの人、オシッコが近いので度々トイレ休憩が入る人、常用薬の影響で仮眠が必要な人…、滞在する奄美の自宅からスーパーまでは徒歩30分。コンビニともなれば徒歩1時間近くになるので、いちいちタクシーを使っている。やはり奄美にも来る度、免許は絶対に必要だと思うのだ。両親は「マホの運転なんて怖くて乗れない」なんて言うのだけれど。

 家で大好きな「Dr.スランプ」を読んでいると思う。『車買うなら絶対この中に出て来るどれかにしたい!』と。みどり先生はシティ、千兵衛さんはフィアット…へえ〜。パンダ、アウトビアンキ…バイクも乗ってみたくなる。車を買ってから免許をとる人って、いるのだろうか。そもそも、車って免許なくても買えるのかな?

 IKEA、奄美と比べたら優先順位はだいぶ低いが、可愛い車を買うことが1番免許取得へのモチベーションが上がる。最も夢見がちな選択肢でもあるけれど。

 可愛い車が家に来たら…まず、車に合うクッションと膝掛けを買いたい。それから、昔よく見た座席の背もたれにTシャツ着せるやつ。あれ、もうやってる人ほとんどいないはずだけど、一旦試してみたい。タクシーのおじさんが使っている木の玉(ウッドビーズというらしい)のシートカバーも惹かれるものはあるけど、せっかく可愛い車を買っているので、80年代テイスト入れるなら、Tシャツがいい気がする。もう背もたれに着せるTシャツの候補は何枚かある。

 それからアジアを旅行している時によく見かけたのが、車にシールを貼ったデコレーション。あれも車を持ったらやってみたいことのひとつ。日本ではシールでデコレーションした車に遭遇したことがない。「夢」ってでっかく書いてある車なら見た事あるけど。どうやら車検を気にしてのことらしいけれど、わたしもインドやベトナムのように好きなシールをベタベタ車に貼ってみたい。アラレちゃんとかスヌーピーとか。サンリオのシールでも可愛いと思う。

 で、思春期に持ってたCDをぜーんぶ車に積む。米米クラブ、スチャダラパー、ブルーハーツ、宮沢りえ、レニー・クラヴィッツ、ヴァネッサ・パラディ、カーディガンズ、パルプ…。それらを片っ端から聴いて脳内をタイムスリップさせる。いっそ当時のお気に入りの漫画も全部トランクに積んでしまおうか。パタリロ!、奇面組、めぞん一刻、伝染るんです。、稲中、ドラゴンヘッド、スタア学園、ホムンクルスに…。

 うーむ…すごい楽しそう。車からなかなか出なくなりそう。ちょっと本気が出てきたかもしれない。

 よし、とりあえず「Dr.スランプ」をまた読み直そう!そして、上北沢教習所のホームページを見るとするか。

著者:しまおまほ
1978年東京都生まれ。漫画家/イラストレーター。多摩美術大学美術学部二部芸術学科卒業。1997年に高校生のときに描いた漫画「女子高生ゴリコ」でデビュー。著作に「タビリオン」「ぼんやり小町」「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」「まほちゃんの家」「ガールフレンド」など多数。最新著書は2021年3月発表の単行本「家族って」。
Twitter:@mahomahowar

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