あおり運転が問題視されるようになったこともり、ここ数年で急速に関心が高まったドライブレコーダー。しかし、実際に製品を見てみると、数え切れないほどの機種が発売されていて、価格も数千円から5万円を超えるものまで千差万別。どれを買えばいいのか迷ってしまいます。
そこで、モータージャーナリストでカーAV評論家の会田肇さんに、ドライブレコーダー選び方と最新事情を教えてもらいました。

会田肇(あいだ はじめ)
1956年茨城県生まれ。自動車雑誌出版社で編集職に携わった後、フリーランスへ。カーナビの黎明期より進化の過程を追い続け、その発展形であるインフォテイメント系のレポートも行う。使い手の立場でわかりやすいレポートを心掛け、掲載媒体は自動車専門媒体からモノ系媒体にまで及ぶ。カメラ系の情報にも詳しい。日本自動車ジャーナリスト協会会員。デジタルカメラグランプリ審査員。
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そもそもドライブレコーダーの役割とは?
まずは、ドライブレコーダーがどのような役割を持っているのか、そしてどんな仕組みなのかを改めて確認しておきましょう。
「ドライブレコーダー(ドラレコ)は、常時記録を行い、アクシデントが発生したときの映像と音を記録する装置。主に搭載されているのは、カメラと、撮影した映像を保存するためのメモリーカード、マイク、衝撃を感知するジャイロセンサー、現在地を記録するGPS、映像を確認するモニターです。映像は常時録画され、事故などで衝撃が加わったときには、その前後の映像を別フォルダに自動保存。上書きされないようになる仕組みになっています」(会田さん、以下同)

映像が確認できるようモニターを備えるタイプが一般的(写真:ミノシマタカコ)
GPSは現在地を記録するのが主な役割ですが、位置情報だけでなく、正確な時間情報を獲得するためにも欠かせない機能だと言います。
「あまり意識されませんが、場所だけでなく、何時何分何秒にアクシデントが起きたか、正確に記録するために欠かせないのがGPSです。GPSからは正確な時刻情報が発信されていて、これが事故の記録として重要な情報になります。事故が起きたとき、ドラレコ映像の提出は任意です。証拠として採用するかどうかは、裁判官の判断によります。証拠として採用してもらうためにも、データは時刻も含めて正確なほうがいいでしょう」

「ケンウッドDVR-CW560」で撮影したデータをPCビューワーで再生したもの。画面左下の折れ線グラフはクルマの3方向の動き、数字は速度、右上の地図は撮影した場所の位置を表す(画像:会田肇)
「加えて、専用ソフト付きの物のほうがオススメですね。クルマの動きや加速度センサーなどの情報も解析することができるため、証拠能力が上がります。『もしものため』と思ってつけるなら、できるだけ多くの情報を記録できる製品を選んだほうがいいでしょう」
最近のトレンドは「リアカメラ」付き
初期のドライブレコーダーは前方を撮影するだけでしたが、今では後方を撮影するリアカメラつきや、360度撮影ができるものも登場しています。実際に今、人気が高いのはリアカメラ付きだそう。
「あおり運転対策として、クルマの後方を撮りたいというニーズが増えました。また、後ろのクルマが一定エリアに近づくと警告を出して、あおられていることを知らせてくれるものもあります。『360度撮影+リアカメラ』というタイプも増えてきましたね。駐車中のイタズラに備える駐車監視機能つきも増えています」

「ケンウッドDRV-MR8500」での後方カメラ画像。接近を検知してくれる(画像:ケンウッド)
では、画質面の違いはあるのでしょうか。デジタルカメラでは画素数が重要となりますが、ドライブレコーダーにも当てはまるのでしょうか?
「今のドライブレコーダーは、どの機種でもそこそこの画素数を持っています。大きな能力差が表れるのは、画素数よりも感度。夜間や朝の逆光での撮影は、カメラによってかなり鮮明度が変わってきます。暗闇での鮮明度をウリにしている製品を選びたいですね」
そのほか、ドライブレコーダーを選ぶにあたって注意点はあるのでしょうか? 安物はよくないとか……。
「安価な製品だと、フロントはちゃんとした高精度のカメラでも、リアカメラはクオリティが低くて画質が粗いものもあります。フロントだけでなく、リアカメラの画質や感度なども注意点して買ったほうがいいでしょう。ちなみに、リアガラスにスモークフィルムが貼ってあるクルマは要注意です。車内側に設置すると映像が暗くなってしまうので、濃いフィルムを貼っている場合は、防水カメラを車外に設置するタイプを選ぶとよいでしょう」
なかなか気が付きにくい点として、メモリーカードにも注意事項があるそうです。

近年のドライブレコーダーの多くはMicroSDカードを使う(写真:ミノシマタカコ)
「ドライブレコーダーは『記録』と『消去』の動作を繰り返すため、メモリーカードへの負担が大きく、安いメモリーカードだと、肝心なときに記録されていなかった……ということも起こりえます。メモリーカードは、多少高くてもきちんとした製品を選ぶことが大切。倍ほど値段は高くなりますが、監視カメラ用のカードを選ぶのもひとつの手です」
赤外線付きや緊急通報システム付きも登場
クルマを止めたときに、外からクレームを言われたり、暴力を振るわれそうになったり……。ニュースでは、そんな怖い映像も見かけます。そんなときには、車内を撮影するカメラが有効です。

レーシングドライバー脇阪寿一氏プロデュースのドライブレコーダー「オウルテックOWL-DR803FG-3C」は車内カメラも装備(写真:ミノシマタカコ)
「車内カメラについても、夜の撮影が厳しい製品があります。相手に気づかれずしっかり撮りたいなら、赤外線付きのものがおすすめ。夜になると自動で赤外線へ切り替わって、暗闇でも明るい映像を記録できます。ただし、映像はモノクロとなり、車内が広いミニバンなどでは、後部座席まで映すのはちょっと難しいですね」
会田さんに、赤外線で車外を撮影できるカメラを用意してもらい、屋内で試してみました。すると……。

赤外線の車内カメラで撮った映像。モノクロながら鮮明に映っている(写真:ミノシマタカコ)
こんなに鮮明に映りました! これなら車内で何かが起きても証拠になりそうです。会田さんによると、こういった赤外線カメラはタクシーに多く搭載されているそう。ほかにも保険会社による緊急通報システムと連携したドラレコも生まれていると言います。
「ドライブレコーダーとセットとなった自動車保険が出てきています。これは、アクシデントが起きると、自動的にコールセンターへつながり、呼びかけてくれるシステムがついたもの。ここでドライバーが呼びかけに応じないときは、意識不明の可能性もあるため、センターから警察や救急隊に連絡。GPS情報をもとに、クルマまで駆けつけてくれます。自分のためはもちろん、『高齢になった親のために』と導入するケースもありますね」

ドラレコの本体に赤い緊急通報ボタンがあり、これを押してセンターと通話することもできる(写真:ミノシマタカコ)
どれだけ鮮明な映像を残せるかはもちろん、「どこまで記録したいか」によっても選択肢が変わってくるのが、今のドライブレコーダー事情。では、これからドライブレコーダーはどんな風になっていくのでしょうか?
「今はメモリーカードに保存するのが主流ですが、将来的にはアクシデントの瞬間の画像をサーバへアップするのが当たり前になっていくでしょう。セキュリティの高いサーバにアップして改ざんされないようにすれば、証拠としての能力も高まります」
現在はドラレコ義務化といった動きはありませんが、自動運転が実現するようになれば、そういった時代がくることも「無きにしもあらず」と会田さんは考えているそう。自動車メーカーが純正採用するケースも出てきているので、すべてのクルマに装着される時代がきてもおかしくはさそうですね。
取り付けはシガーソケットでOK。バッテリー直結も可能
最後に、ドライブレコーダーの「取り付け方」について聞きました。難しそうに思えますが、実際に見せてもらうと、ガラスの内側に両面テープでカメラを貼り付け、電源をシガーソケットに接続するだけと、意外に簡単。配線をいかにキレイに隠せるかがポイントとなりそうです。
「シガーライターソケットに挿すタイプは、基本的に自分で取り付けできます。ただ、ソケットの場所によって、足に当たって外れてしまったり緩んでしまったりすることもあるので、しっかり差し込まれているかをチェックすると同時に、日常的にちゃんと電源が入っているかを意識するといいでしょう」

足下にソケットがあると、足をぶつけた際に外れてしまうことも(写真:ミノシマタカコ)
シガーソケットで電源を取りたくなかったり、取れなかったりする場合は、バッテリーから直結させることもできるとのこと。ただし、この方法は少し知識を要するため、ディーラーやカー用品店でお願いするのがよさそうです。
またカメラの取り付け位置は、「道路運送車両の保安基準(第39条)」により、視界の妨げにならないよう「バックミラーで隠れる範囲」「ガラスの上縁20%以内の範囲」などと定められています。保安基準にのっとった位置に取り付けるようにしましょう。
もはや必須アイテムとも言えるドライブレコーダー。「安いから」と価格だけで選ばずに、万が一の証拠をしっかり残せるきちんとした製品を選びたいですね。
取材・文:ミノシマタカコ/編集:木谷宗義(type-e)+ノオト