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かわいい「旧車のデザイン」のクルマを今、作れないのはなぜ?

かわいい「旧車のデザイン」のクルマを今、作れないのはなぜ?

丸みを帯びたボディにまん丸のヘッドライト、メッキのモール……と、「旧車」「クラシックカー」「ヴィンテージカー」と呼ばれるクルマには、「かわいい!」と言われるデザインがたくさんあります。中には、「昔のデザインはよかった」なんて言う人もいるほど。

昔のデザインをそのままリバイバルすれば売れるのでは? と思ってしまいますが、なかなか出てこないのは何か理由があるのかも? そこで、自動車のデザインに詳しいモータージャーナリストの森口将之さんに聞いてみました。


ブログ「THINK MOBILITY

「昔のデザインはよかった」と言われる理由

――そもそも、なぜ旧車は「かわいい」と言われるデザインが多かったのでしょうか?

森口:古いクルマのデザインがいいと言われる理由には、いくつかあります。ひとつは、「安全基準」や「環境基準」が今ほど厳しくなかったことが関連します。

安全基準の面で、現代のクルマは衝突安全の規定によって、ボディ骨格の構造や形状がだいたい決まってしまいます。また、どこかのメーカーが優れた構造やデザインを開発すると、他メーカーもそれに追従していきますから、結果的に平準的になり「個性がない」と言われがちになるのです。

「ヤリスクロス」のボディ骨格(写真:トヨタ自動車)

森口:環境基準では、空力性能がポイントとなります。昔は時速100㎞も出れば十分でしたが、今は時速180㎞を超えるスピードが出るクルマも珍しくありません。そうなると、走行安定性のためにも燃費性能のためにも、空力が重要となってきます。特に最近は、燃費が重視されるので、いろいろなデザイナーさんから、空力に頭を悩ませているという話を聞くようになりました。

昔のクルマは、今ほどスピードも出なかった上に、環境問題が重要視されていなかったので、比較的自由な発想でデザインができたのだと考えられますね。

――設計上の制約がないからこそ、自由なデザインができた、と。

森口:そのほか、販売戦略もデザインに関わっています。昔は、現在のようにグローバルで販売しようという戦略は、あまり見られませんでした。第2次世界大戦前は、ドイツのメーカーならドイツ国内、フランスのメーカーならフランス国内だけで売れればいいと考えていたわけです。

1960年代にフランスのシトロエンで販売された「AMI6」

森口:それが、戦後になってヨーロッパの各国やアメリカ、日本などへの輸出が始まり、輸出先でヒットする車種が出てきます。「売れたクルマを参考に、さらに輸出先で売れるクルマを作ろう」と、いろいろな地域の人に好まれるデザインを目指した結果、デザインが似通ってきて、そのメーカーらしさやその国らしさが、表現しにくくなってきたのでしょう。

――たしかに同じ1960年代のクルマでも、フランス車とアメリカ車では形も大きさもまったく違いましたよね。

森口:もちろん、一口に「昔のデザイン」といっても、戦前から1960年代、1970年代……といろいろなデザインがありますが、流行の中で試行錯誤したり大衆化が進んだりしていく中で、たまたま動物的な表情を感じられるクルマが登場した時期に、「よかった」といわれるデザインが多かったとも言えるでしょう。

さらに、素材の進化もデザインを変えました。たとえば、昔のクルマは丸形の大きなヘッドランプが付いていましたが、1970年代ぐらいから「異形ヘッドライト」と呼ばれる車種ごとに異なる専用デザインが採用されるようになりました。また、安全基準が厳しくなったことで、金属製のバンパーが樹脂製に変更されていきました。

1962年に登場した2代目「クラウン」。丸型ヘッドライトに金属製のバンパーがつく(写真:トヨタ自動車)

それにより、基本的な造形を作ってから、ヘッドランプとバンパーを装着し、グリル部分を開ける流れだったのが、安全性能や空力性能との兼ね合いもあって、ヘッドランプもバンパーもすべてボディの一部としてデザインされるように。すると、デザインの方向性は、必然的に決まってきてしまいます。このようにしてデザインの幅が制限されたことが、「昔のデザインはよかった」と言われるもっとも大きな要因だと考えられますね。

現代の技術でクラシックなデザインは作れないの?

――今後、クラシックカーのようなデザインのクルマが登場する可能性はありますか?

森口:これまでにお話ししたとおり、グローバル化や安全基準の強化などによって、デザインの自由度が狭まっているのが現状ですから、まったくそのままのリバイバルは難しいでしょう。でも、最近、その流れは少し緩和傾向にあります。というのも、自動運転/無人運転という新しいスタイルのクルマが生まれてきているからです。

自動運転システムを搭載するトヨタ初のAutono-MaaS専用EV「e-Palette」(写真:トヨタ自動車)

森口:安全性や環境性能が厳しく求められている点は変わっていませんが、自動運転により事故を減らすことが期待できるということから、ボディを頑丈に作ったりボディで衝撃を吸収したりという方向性は、一段落しているのではないかと感じています。

また、今までの“スピードとエコの両立”という流れから、燃費や安全のためにスピードを求めなくなってきている面もあります。特に電気自動車は、ガソリン車とは違いスピードを出すほど効率が悪くなるため、スピードを出さない方向になってきています。

そうなるとデザインの自由度は増し、昔のクルマのようなデザインを取り入れることも可能かもしれません。その意味では、10年前と比べると、デザインの自由度は増していると思います。

――クラシックなかわいいデザイン、期待できそうですね!

森口:とはいえ、安全基準や環境基準が緩くなったわけではありませんし、中国をはじめ、今までになかったマーケットも加わっています。たとえば、発展途上国の人たちは、これから新たにクルマを手にする人たちです。この人たちが、わざわざレトロなクルマをほしがるとは思えませんよね。

彼らにとってクルマは先進的なものですから、レトロよりもモダンなデザインが求められるはずです。こうしたマーケットを重視すると、技術的には可能でもレトロなクルマをリバイバルする方向にはなりづらいでしょう。

一方で、先進国にターゲットを絞ったモデルであれば、EVシティコミューターとして登場した「ホンダe」のように、空力もそこそこで街に調和した親しみの持てるデザインも可能となります。

2020年10月に発売された「ホンダe」(写真:本田技研工業)

森口:日本の軽自動車は、それに近い流れをすでに持っていますよね。スズキ「ラパン」やホンダ「N-ONE」など、キュートなデザインのクルマも存在しています。このように、ターゲットを絞った商品にすることで、レトロやキュートといった自由度の高いデザインは実現可能です。

また、100年以上ものクルマ文化を持ち、クルマ社会が成熟している先進国は、「この時代のデザインがいいよね」という見方に変わってきていると感じています。高価なものになるかもしれませんが、そうした層をターゲットにした自由度の高いデザインのクルマが出てくることは十分に考えられますね。

電気自動車の時代になるとクルマのデザインは変わる

――時代は電動化へシフトしています。これもデザインに影響を与えますか?

森口:電気自動車はモーターがエンジンよりも小さく、ガソリン車と比べてデザインの自由度は高くなりますから、新しいデザインが出てくるかもしれません。「ホンダe」もモーターをリアに搭載したことで、あのデザインが可能となったと言えます。電気自動車はどのメーカーにとっても新たな分野ですから、デザインにおいてもメーカーごとのチャレンジが見られるでしょう。

リアにモーター、床下にバッテリーを搭載する「ホンダe」のレイアウト(写真:本田技研工業)

森口:また、よく“所有からシェアへ”と言われるように、クルマは使い方や所有の仕方も変わってきています。A地点からB地点まで移動するだけのシェアカーや自動運転車と、所有する喜びを満たすクルマとでは当然、求められるデザインも違いますよね。

使用用途を割り切るからこそのデザインも生まれてくるでしょう。「スポーツカーとシェアカー」「クラシックカーと自動運転車」といった組み合わせのカーライフも、近い将来、当たり前になっているかもしれません。

――森口さんのお話から、安全基準や環境基準によって、リバイバルが現状では難しいことがわかりましたが、一方で電動化や自動運転化によって新たなデザインも生まれてきそうです。「昔のデザインはよかった」から「最近のデザインはいいよね!」と言われるように変わっていく。そんな未来が待っていることを期待したいですね!

取材・文:先川知香 編集:木谷宗義(type-e)+ノオト


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